空白の翻訳

by 1031jp

2014-05-12

地下鉄の中で病院から着信があり、取れずにいると、

看護師からメールが入る。担当医から話があるとのこと。

 

入院受付は、家族など心配そうに寄り添う誰かと一緒に来ている人が殆どだ。

妻と思しき女性に付き添われた、よく日焼けした働き盛りの中年男性。

高齢の男性がひとり、付き添いなしで来ていた。

みんなどうしたんだろう。どこが悪いんだろう。

 

付き添いはいませんという会話を、応対者が変わるたびに何度か行い、

手続きを済ませ、病室へ。そのまま少しの間、担当医を待つ。

荷物を下ろし、上着を脱ぎ、靴を持参のサンダルに履き替えると、

することもなくなり、ベッドに座って窓の外を眺める。

景色の良い病室ではなかったが、

高いところから外を見るのが好きなぼくにとっては、

最上階というだけでまあまあだ。

 

暗い話だったら嫌だと憂鬱な気持ちでいると、

言い出しにくそうな表情の担当医が来室。

出血リスクを避けるために、服用中の薬の断薬期間を再設定したいとのことで、

入院も含めて延期となる。

朝の会議で、上司にあたる医師よりそうすべきではないかとの助言があったとのこと。

彼は平身低頭。その後病棟の婦長も訪れ、同様に平謝り。

 

持参のサンダルを靴に履き替え、上着を羽織り、荷物を背負って、病院を出る。

食事や買い物などして気持ちを発散しようにも、散財する経済的余裕はない。

おとなしく直帰すると、まだ午前。

完璧に掃除してから出てきた我が家を、

せいぜい3、4時間ほど空けたに過ぎなかったことになる。

 

 

病状や身体がどうなったという話ではないのだが、

準備していた気持ちや予定などのやり場というか、

振り回されたことで精神的にひどく落ち込んでしまい、疲れて体調も悪い。

この春は基本的に臥せっていたので、

足腰をはじめとしてスタミナなど体力も落ちているように感じる。

 

 

狂った予定をあれこれ急いで再調整しなければならず、

貧乏人には落ち込んでいる暇などないのは分かっているが、

なかなかうまく自分をコントロールできない。

行政のセーフティネットに頼る選択肢をしっかり頭の片隅に置いておかないと、

おかしな行動を取ってしまいそうだ。

躁鬱のジェットコースターもステロイドの副作用のひとつだが、

もはや自前なのか、症状なのか、副作用なのか分からなくもある。

14歳から付き合っていると、症状も副作用もすべて自分の一部という感覚しかない。

とはいえ、この性格もいまの自分を取り巻く様々な状況も、

何もかも自分が悪いんだという考えに支配されて人生を送るのは良いことではなさそうだ。

 

なんとか原稿を一本片付けたことで今日は充分とする。

 

夜、DVDで映画を観る。

 

 

ひとりぽつんとベッドに座って外を眺めているときの気持ちや、

小さくなって申し訳なさそうな担当医の姿、

その後訪れた婦長、隣に立つ若い看護師の顔、

最高に物分りのいい爽やかな笑顔で分かりました、

と言ったときの表情筋の感覚や自分の声、

さっき脱いだばかりの靴を履き、上着を羽織り、荷物を背負って帰るときの

混沌としていながらなんとなく白い精神状態などがいつまでも思い出され、

最後まで乱れた一日だった。